Interview
あなたからあなたに
Vol.14柳亜矢子
ikawには、フィリピン語で“あなた”という意味があります。肌はあなた自身であり、あなただけのもの。あなたがあなたの味方でいること。あなたがあなたに寄り添ってあげること。
「あなたからあなたに」は、そんなブランド名に込められた“あなた”の物語を聞いてゆくインタビューコンテンツです。
第十四回は、ナチュラルでおしゃれなヘアスタイルが業界内外から絶大な支持を集めるヘアサロン「Sraw(スロウ)」オーナー・柳亜矢子さんが登場。美容師として多忙を極めた20代から、働き方を見つめ直し現在のスタイルに至るまでを振り返り、気持ちよく日々を過ごすためのコツやものづくりの想いなど幅広くお話を聞きました。
———まず最初に、あなたのこれまでについて教えてください。
美容専門学校を卒業して、初めは当時代官山にあった「81/2Eight&half」というサロンに就職しました。そこでは6年間働いたのですが、スタイリストデビューが早かったこともあり、25歳くらいには美容師として一区切りがついたような気がして、一度仕事を辞めて次のステップを考えるようになりました。海外に行ってみたり、ヘアメイクの事務所に入ろうと調べてみたりしていたところ、前職の先輩から声をかけてもらって、明治神宮前のサロン「broocH」の立ち上げに参加することに。今思うとこんなに色々な仕事をすることは考えず、本当に軽い気持ちで新たな美容師人生がスタートした感じです。
———現在オーナーを務める「Sraw」も代官山にあります。この街には何か特別な想い入れがあるのでしょうか?
代官山という土地はわたしにとって美容師の原点のような場所なんです。高校生のときに初めて来たのですが、「なんだこのオシャレな街は…」と、衝撃を受けたことを今でも覚えています。当時はお洒落なビンテージショップとかが裏路地などに多くあり、こういう街の一軒家サロンに就職したいなと思い、就職活動のときはとにかく代官山エリアに絞って探しました。その後、明治神宮前、表参道と他の街でも働きましたが、自分の空間を一から作るとなったときに思い浮かんだのはやはり代官山でした。
———サロンワークを中心とされる柳さんですが、現在の働き方に至るまでにはご自身の体調などさまざまな変化があったそうですね。
20代後半から30代前半までは、美容業界誌やヘアカタログ、雑誌のヘアメイクといったサロンワーク以外の仕事をかなり詰め込んでいて、毎日朝早いし、休みの日も撮影というくらい日々仕事に追われていました。しかも、当時の同世代の美容師たちって本当にみんなタフで、朝早くから仕事して、夜遅くまで飲んでまた早朝から撮影の繰り返し。わたしも同じようなペースで働いていましたが、34歳のときに婦人科系の病気で体調を崩してしまって、初めて自分にもこういうことあるんだと一度撮影の仕事をセーブすることにしました。ただ、治ってからしばらくすると有難いことにまた声がかかるようになって、また忙しくなってしまって……。40代に入って、この働き方をずっと続けるのは難しいということで、サロンワークに専念できるライフサイクルにすべく、都内から鎌倉へと住まいの拠点を移すことにしました。
———ヘアメイクの仕事を手放すことにためらうことはなかったですか?
やらなくなったことで失うこともあるけれど、手放すことで自分自身をコントロールできているようなところもあって、今はそれでいいかなって感じています。美容師さんってサロンワークだけでなく、撮影やヘアショーをしている方など色々な働き方があるので、正解はないと思うのですが、わたし自身はサロンワークに集中した働き方を選んだことで沢山のお客さまと触れ合うことができ、今とても幸せです。
———「Sraw」のコンセプトについて教えてください。
2021年の7月にオープンした「Sraw」はコロナ禍で作ったということもあり、お客さまが自然体でいられる空間にしたいという思いで作りました。お客さまのなかには忙しく働く大人の女性やママさんが多いので、そういう方達が落ち着いて自分と向き合える空間にしたいなと。
———「Sraw」という名前にはどんな意味があるのでしょうか?
「Sraw」は、ゆっくりを意味する「Slow」とありのまま、自然体という意味を持つ「Law」という英語を掛け合わせた造語なんです。お客さまがゆっくりとありのままで自分らしくいられる空間。髪を切ってリセットして、新しい気持ちになれるお店を作りたいなと思って名付けました。内装もそういったイメージを大切にしていて、あえて美容室っぽくないような配置を意識して木のダイニングテーブルを真ん中においたり、視線に入るところにちょっとしたオブジェやお花などを飾るようにしています。
———お客さまとのコミュニケーションにおいて大切にされていることはありますか?
どんなときでも、どのお客さまに対しても常に一定で変わらない仕事をすることを心がけています。ずっと来てくれている人、新しい人、モデルさんといろんな人がいるけれど、みんな変わらず自分にとってはお客さまなので、みんなに対して等しく振る舞っているのがお客さまにも伝わっているのかなと思ったりしますね。お話が好きな人も多いので、ただ髪を切りに来るということだけでなく気持ちの面でもリフレッシュができるような空気感を心がけています。
———柳さんご自身がニュートラルな状態を保つために大切にしているルーティンや暮らしの切り替えなどはありますか?
自分自身が心地よくいるために、浄化や整えるといった習慣に興味があります。お店では盛り塩やクリスタルを置いてみたり、お花を飾ってみたりと空間が気持ちよくなるものをなるべく視界に入れるようにしていて、わたしだけでなくお客さまやスタッフも気持ちよくいられる空間にしたいなと。あとは、とにかく規則正しく、睡眠もしっかりとるようにしています。仕事の日に他のことをやると疲れちゃうから、仕事の日は仕事、休みの日にリフレッシュみたいな感じで休みの日にできることはなるべく休みの日に回して、意識的にオンオフを作るようにしていますね。
———2022年からはヘアプロダクトブランド「TAU」もローンチされました。商品開発に携わるようになったきっかけについても教えていただきたいです。
「TAU」の前にも、実は一度スタイリング剤の開発に携わらせてもらう機会があったんです。そのきっかけとなったのは、10年ほど前は肌にもつけられる天然由来成分を使ったスタイリング剤がほとんどなかったこと。ケミカルなスタイリング剤を使うとわたし自身頭皮が痒くなったりしてとても困っていました。だから、天然由来成分のマルチバームが出たときは本当に感動しました。ただ天然由来のものには気温差によって固まってしまうものもあって。もっと柔らかいテクスチャーで伸びが良く、操作性の良いものがあったら、誰もが簡単に扱えて良いなという想いから、美容師目線でのスタイリング剤の開発に携わりました。
———まさに美容師さんならではの目線ですね。
今はわたしの手を離れたのですが、当時のものづくりの目線が自分にとって基盤になっていて、また新しくなにかを作りたいと思い始めたのが2020年くらい。世の中が不安定な時期だったので、気分が高揚するというよりも心を落ち着かせられる精油を使ったものを作りたいなと思い、香りに意味を込めたヘアプロダクトを作りました。
———「TAU」のプロダクトは強すぎず、どんな人にも心地よい香りが印象的です。
最近は香水のように合成香料を使った段階的に香るオイルが増えていますが、「TAU」は天然精油100%で、サンダルウッドをメインとした樹木や樹皮などのラストノートに香るようなウッド系を使用しているところがポイントです。個人的にほかの香りとぶつかってしまうので、ヘアオイルの香りはあまり持続しなくていいと思っていて、その残り香のバランスにも気を配っています。あとは基本的にスキンケアの延長線上に近い成分なので、手肌にも馴染ませられて、どんな人が使っても簡単にスタイリング出来るという操作性の良さや使い心地も美容師目線として大切にしている部分です。
———ものづくりの視点でikawに共感される部分などはありますか?
ikawはブランドのコンセプトが使う人に寄り添っている気がして、とても親近感を感じています。「TAU」も使う人の背中を押してあげられるようなブランドでありたいと思っているので、ユーザーと一緒にブランドがあるというようなブランディングであったり、コンセプトに沿ったカラーリングやデザインのムードが素敵だなと思っています。
———日々のスキンケアでikawを使われているという柳さん。使ってみていかがでしたか?
もともと敏感肌で季節の変わり目にかぶれてしまったり、使ったことのないコスメで肌が荒れたりといったトラブルが多いのですが、ikawはどのアイテムも刺激が少なく、何も感じないくらいの使用感に驚きました。とくに「ikaw skincare oil」はつけることで肌がすごくふんわりする不思議なテクスチャー。サラサラで軽いというのも違うし、こっくりもしていない今までに体験したことのない使い心地が癖になっています。
———お気に入りの使い方はありますか?
「ikaw skincare oil」はスキンケアのブースターとして最初に使うことが多いです。あとはお風呂に浸かっている間のマスクとして贅沢に使う日もあります。お風呂に浸かっていると意外と肌が乾燥するんですよね、そういった乾燥から防いでくれるというのと、膜を張ってくれるので血の巡りがよくなって代謝が上がる感じがして気持ちがいいんですよね。あとから流しても肌がよりいっそうふっくらと柔らかくなる気がします。
———最後に、これからやりたいことはありますか?
美容師の仕事は生涯できるし、やっていきたいのでこれからも続けていけるようにまずは健康第一に。歳を重ねることで思いつくことや気づけることもあると思うので、新しいことをやってみたいと思ったらそれを形にできたらと思います。「TAU」も新しいものが常に生まれる時代のなかで、長く愛してもらえるものづくりをしていきたい。そういう想いを胸に少しずつですが続けていけたらいいなと思っています。
柳亜矢子(やなぎ・あやこ)
「broocH」のオープニングに参画し、トップスタイリストとして活躍。現在は、2021年にオープンした系列店の「Sraw」のディレクターを務める。2022年にローンチしたマルチケアオイル「TAU」のディレクションも手掛ける。
SHOP INFO
住所:東京都渋谷区代官山町13-4 ヴォーグ代官山Ⅱ2F
電話番号:070-6649-7131
営業時間:月、水〜金 11:00~20:00 / 土 10:00~20:00 / 日・祝 10:00~19:00
定休日:火曜日 HP:Sraw Instagram:@sraw_salon
Photographer /Shunsuke Imai
Writer /Mikiko Ichitani