Interview

あなたからあなたに - 嶋津一馬・蓮沼千紘

あなたからあなたに

Vol.04嶋津一馬・蓮沼千紘

ikawには、フィリピン語で“あなた”という意味があります。肌はあなた自身であり、あなただけのこと。あなたがあなたの味方でいること。あなたがあなたに寄り添ってあげること。

「あなたからあなたに」は、そんなブランド名に込められた“あなた”の物語を聞いてゆくインタビューコンテンツです。

第四回は、東京を拠点としながらも、サロンワーク巡礼と称し日本全国を髪を切りながら旅をする独自のスタイルで美容師として活躍される嶋津一馬さんとハンドニットクリエイターとして、雑誌や広告などの衣装提供や自身のニットブランド an/eddy(アンエディ) を通して自身の世界観を表現し続ける蓮沼千紘さんが登場。それぞれ異なるスタイルで表現を行うお二人が、日々の中で大切にしていることや周囲との関わり方などについて教えていただきました。

———まず初めに、お二人のそれぞれのお仕事について教えてください。

嶋津 僕はずっと原宿で美容師として働いていたのですが、1年半ほど前にフリーランスとして独立しました。今は原宿のシェアサロンを拠点に、全国のいろんな土地を回って髪を切りながら旅をしています。

———以前のサロンでは店長として働いていらっしゃったそうですが、このような新しい働き方を選ばれたのはどうしてですか?

嶋津 もともと旅も好きで色々一人旅で海外に行ったり、いろんなところに行くのが好きだったこともあり、お店を出して独立するというよりはそういう自分らしいスタイルで働けたらいいなと思ったんです。フリーランスになってどこかに所属するとかではなく、いろんな場所を借りて地方に行って、髪を切りながら旅するみたいなスタイルの美容師さんがいてもいいんじゃないかなと。場所は、その時の気分で行きたいと思ったところに行っています。SNSで告知をして、お客さんに来てもらったり、場所を貸してくれる美容師さんと出会ったりと、毎回人との繋がりを実感しています。

———面白いですね。決められた中での出会いじゃなくって、毎回新鮮な出会いが待っているんですね。

嶋津 地方だと年に一回とか半年に一回しか切りにいけないところもあって、中にはずっと待っててくれている人もいます。僕としては、普段は他の美容室に行っていてもいいから、イベント的にこの時だけは特別な空間とかそういうちょっと日常が変わる瞬間というのを味わってもらいたい。それによって、僕の作るヘアデザインも変わったり、その人にとっていつもと違う何かを与えられたらいいなと思っています。

———蓮沼さんはハンドニットクリエイターとして、ご自身のブランド「an/eddy」でのクリエイションから、雑誌や広告、MVなどの衣装制作まで幅広く活躍されています。そもそも、ニットを始めたきっかけはどこからだったのでしょうか?

蓮沼 実は、高校生までバスケットボール一筋の生活だったんです。父親がミニバスの監督で、スポーツ推薦で進学するほど打ち込んでいました。きっかけは、通っていた高校が風紀に厳しく、学校生活の中でおしゃれをすることができなかったこと。そこからだんだんとファッションへの興味や憧れが募っていきました。高校卒業後はファッションデザイナーになりたいと思い、文化服装学院に進学したのですが、二年生の進級試験の日に体調を崩してしまって、第一志望のアパレルデザイン科の試験に落ちてしまいました。それがきっかけで、第二志望で受けていたニット科に進級することに。当初わたしが好んでいたテイストがかなり尖っていたこともあり、ニットのほっこりとしたいわゆる手芸のようなイメージに興味が持てなかったのですが、実際にさまざまな技法を学ぶうちに、ニットでも自分次第でどこまでもファッションを表現してゆけることに魅力を感じてゆきました。合わせる糸や編み方を考えて、工夫することで可能性を拡げられるんだなと。

———バスケットボールをそんなに本格的にされていたというのは意外でした。小さい頃からニットは身近にあったのですか?

蓮沼 母や、祖母がよく編み物をしていたので身近にあったのだと思います。バスケをしていてよかったなと思うこともあって、長時間編み続けても腱鞘炎に全然ならないんです。編むのも早いし、集中力もあるので納期の短い仕事を受けているときは本当にアスリートのように黙々と編み続けていますね。

嶋津 近くで見ていても本当にすごい集中力です。全然眠らずに作業を続けることもあるので、最近では最低でも6時間は眠るように二人で決めて生活のリズムを意識するようにしています。

蓮沼 以前は自宅をアトリエにしていたので、寝る直前まで作業ができてしまうことからやめどきが分からなくなってしまうことも多くて。今は別の場所にアトリエを構えたので、家での時間に余裕ができました。

嶋津 それによってコントロールしやすくなったよね。

蓮沼 徹夜しなくてもスピードやクオリティが上がってきていて、やっぱり寝ることとかって大事なんだなと改めて思いましたね。

———お二人ともフリーランスとして働かれているので、身体は資本ですよね。

蓮沼 本当にそうですね。健康であることが大前提なので食事や睡眠には気をつけるようにしています。玄米や発酵食品を取り入れたり…。

嶋津 最近は糠床も自宅で始めました。自然と普段のご飯の味付けも薄口になってきて、身体に良いなぁと実感しています。

蓮沼 あと、昨年の最初の緊急事態宣言の時は、一ヶ月毎朝二人でラジオ体操をして、それをSNSで配信したりしました。

嶋津 見てくださっている方にも楽しんでもらえるように、スタンプカードの発想で参加した分だけ画像をスクショしてもらって、溜まった人に彼女の作品集と僕が作っているオリジナル通貨「シマヅルピー」をプレゼントしたりしていました。

———シマヅルピー?

嶋津 インドの通貨のルピーにはガンジーの顔が描かれているんですけど、そこを僕の顔に差し替えて作ったお金で、サロンワークなどで使用いただけるような通貨として発行しています。ラジオ体操は、家にいながら一緒に楽しめて、しかも健康にもいい。朝からそういう時間を過ごすようにしていましたね。

———日頃発信されているSNSなどからも、二人の仲睦まじい空気感をすごく感じます。そんなお二人にもクリエイションが止まってしまうような時などあるのでしょうか?

蓮沼 ありますよ。例えば、些細なことでも彼と喧嘩しちゃった時とか。なんだか悶々としてしまって、なかなか手が進まなくなるときもあります。わたしの場合、作業場にこもることが多いので外に出たり、人と会って発散するということができなくて。そういった気持ちを切り替えるためにも、怒っていることも悲しいことも、全てを吐き出し切るようにしています。

嶋津 僕も悶々とはするんですけど、お客様と会うと自然とテンションが上がるので切り替えはしやすいタイプですね。彼女はそうしないと進めないことをわかっているので、そういうときはただ受け止めるようにしています。先ほどのラジオ体操を続けていたときも、毎日コンディションが異なるので、表情が違かったり、参加しない日があったりと彼女のペースで感情を表現していたので見ていた人たちは何かあったのかな?と気がついていたかもしれません(笑)。

———そうやってSNSを通して見てくれる人や、お仕事などで出会う人などさまざまあると思いますが、外側から見える自分と、自分自身が思う自分に差は感じますか?

蓮沼 SNSでも自分に正直でいるようにしています。もともと、そんなにマメなタイプではないので、コメントのお返事ができなくて気にされる方とかもいらっしゃるんですけど、正直に「わたしは器用に返せないタイプなので、期待されないほうがいいと思います」とはっきり伝えるようにしています。その場を取り繕っても、結局できないですし、全ての人から好感を持っていただくことは難しいので、分かってくれる方たちにわかってもらえるでいいのかなって。

———そうやってフラットに出していくからこそ、共感してくれる方がいてくれればそれでいいという態度は相手にとっても分かりやすいかもしれませんね。

蓮沼 ブランドと個人アカウントを分ける方もいらっしゃいますが、わたしは自分のパーソナルな部分がすごく反映されているものづくりの仕方なので、完全に混同しています。そのほうがバックグラウンドを全部含めて身につけたいとか、家に置いておきたいと思ってもらえるので、あえてそういうスタイルにしています。

嶋津 僕もそうですね。仕事のことだけを載せるんじゃなくて、人としての考えとかも書きますし、ライフスタイル含めてを見てもらえたらなと思っているので。そんな僕の発信することに共感してくれる人がいたら嬉しいですし、共感ができなくても、それはそれでその理由を知りたいと思っていて、なるべく等身大のままで人と接したいなと思っています。僕らがライフスタイルとして取り入れていることを、誰かが興味を持って取り組んでくれたら嬉しい。また、お客さんから「やってみましたよ」とか「これ知っていますか?」というような話が広がることが楽しいんですよね。これは美容師としてサロンワークをしていたアシスタント時代からそうかもしれません。僕が接客させていただく以上、+αで何かを持って帰ってもらいたい。そうやってコミュニケーションが広がっていくのが楽しいんです。

———お互いに相手から力をもらったり、影響を受けているなと感じる部分はありますか?

蓮沼 わたしはいつも自分の作るものに対して「最高の作品ができました!」という気持ちで出すことが多いのですが、それでも少し不安になることもあって。そういうときに正直に「どう思う?」って聞くことのできる貴重な存在です。これまでのわたしのいろいろな面を知ってくれていますし、第三者のクリエイションをしている人として尺度なく考えて、家族としても意見をくれるというのは、唯一無二なのかなって思います。

嶋津 僕は彼女のものづくりに対する姿勢だったり集中力というようなところにはいつも刺激をもらっています。外部のお仕事でクリエイションワークをするときとか、人と調和するだけでなく自分の中に確固たるものがないと「これがいいんです」って自信を持って言えないと思うんです。そういうところでの強さは彼女から影響を受けていますね。

———忙しい日々の中で心地よさを感じる時間はどんな時ですか?

蓮沼 一緒に朝ごはんを食べているとき。わたしがご飯を作っている間に彼がコーヒーを淹れてくれたりして、キッチンで別々のことをしているんだけど、一つの食卓の用意をしている瞬間は、お互いがいいマインドになっている気がします。

嶋津 僕もそうですね。たまに、余裕がある日は彼女がお弁当を作ってくれることもあるんですけど、それも心地よいというかただ僕が嬉しい。仕事の合間に食べる瞬間がすごい幸せで頑張れます。

———素敵ですね。お二人が思い描く “心地よい人” ってどんな人ですか?

蓮沼 友達とかでも「あの人はこうだよね」とか他の人の話をする子よりも、「わたしはこう思った」とか「この間こういうことがあって」とか、自分の話をしてくれる子の方が会っていて楽しいなと感じます。お互いの近況を話すことで、別れたあとも充実した気持ちになる。わたし自身も自分のライフスタイルとか、常に自分が何かの出来事とかに対してもどう感じているかを知るようにしているけど、一緒にいる相手もそういうライフスタイルや自分自身がどういう考えを持っているか、どう感じているかということを敏感に捉えている人の方が一緒にいて心地よいなって思います。

嶋津 シンプルに自分のことをわかってくれて、共感してくれる人がその場や瞬間では心地よいのかなと思っていたのですが、業界を走り続けている方など、一緒にいて少し緊張感のある人と過ごす時間も結果として心地よいなと思うようになりました。その瞬間は居心地よくなくても、その人に関わったことでもっとやらなきゃと思わされたり、自分の仕事の意識が変わったりするときに、そういう自分の成長欲求みたいなものが満たされて、結果的にまた会いたいなって思うことができる。そういう人との時間がないと、どうしても今の自分から変わっていけないなと思うので、大事だなと思います。

———最後に、お二人のこれからについて思い描いていることを教えてください。

蓮沼 実はいま妊娠9ヶ月なんですけど、これまでは結婚したから夫婦になるわけじゃないんだとか、夫婦ってなんなんだろうとかって思うことが多かったんです。でも、もう一人いることで家族ってことがより意識されてくるんだろうなって感じています。でも実際は、どうなるんだろう。どのくらいで仕事に復帰できるのかなとかも、働き方も変わってくるだろうし、感じ方とかもどう変化していくのかなって思いますね。

嶋津 会いたい気持ちと同時に、自分たちの変化も含めて楽しみですね。

嶋津一馬 / 美容師

滋賀県出身。ル・トーア東亜美容専門学校卒業。1店舗を経てLess is Moreに入社。CODE+LIMの店長を5年勤めたのち、フリーランスに。東京に拠点を置きつつも、福岡、札幌と移動しながらサロンワークに勤しむ。コンテポラリーダンスへの造詣も深い。

Instagram:@kazuma_shimazu

蓮沼千紘 / ニットアーティスト

神奈川県出身。文化服装学院ニットデザイン科卒業。自身が手がけるハンドニットブランドan/eddy(アンエディ)の作品は国内外で個展やポップアップショップをおこなう。独創的な作品は雑誌、広告、映像、ミュージシャンの衣装などに多く起用される。店内装飾、屋外装飾、多ジャンルとのコラボレーションなど編むという手法を用いた活動は多岐に渡る。

Instagram:@knitchihiro

Photographer /Michi Nakano
Writer /Mikiko Ichitani

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