Interview
あなたからあなたに
Vol.01菊乃
ikaw には、フィリピン語で “あなた” という意味があります。肌はあなた自身であり、あなただけのこと。
あなたがあなたの味方でいること。あなたがあなたに寄り添ってあげること。
「あなたからあなたに」は、そんなブランド名に込められた “あなた” の物語を聞いてゆくインタビューです。
第一回は、グラフィックデザイナーやブロガー、モデルを経て、2015年に自身のブランド「PURPLE THINGS(パープルシングス)」を立ち上げ、メンズウエアデザイナーとして活動する菊乃さんが登場。常に自然体な印象の彼女が「わたしらしく」いるために大事にしていることや、心地よく感じる時間について教えてもらいました。
———まずはじめに、菊乃さんのことを教えてください。
「PURPLE THINGS(パープルシングス)」というアパレルブランドのデザイナーがメインの肩書きになります。最近は、他のブランドのディレクションなども増えてきていてディレクターと呼ばれることも多いです。
———写真の専門学校を卒業した後、ロンドンとアメリカに留学。帰国後はグラフィックデザインの会社で働いていた菊乃さんがファッションデザイナーになったきっかけはなんですか?
アメリカから帰ってきた当時、自分が着たいと思える服が日本に全然なかったんです。その頃はまだ、メンズ服を女の子が着るみたいなことも普通じゃなかったし、女の子がオーバーサイズのTシャツを着ることもあんまりなくって。アメリカではそのスタイルが普通で、わたしもそんな格好ばかりしていたから、女の子がスウェットを着るっていう概念がそもそも日本にあまりないというのが結構苦しかったんですよね。もともとファッションもデザインも好きだし、服作りやってみるかなって気軽な気持ちではじめました。
———当時は確かにそういったユニセックスの服とかはあまりなかったですよね。
メンズライクといったカテゴリもまだあまり浸透していなかったですね。わたしの年齢の子たちが読む雑誌だと「ViVi」とかが全盛期で、ガーリー系が主流という感じだったので。
———そう考えると、いまはすごく選択肢も増えて、菊乃さんの作る服が馴染んできている気がします。
自然とそういう方向に世の中がなってくれたおかげもあり、自分自身も同じテンションを保って続けられたことが大きいですね。
———最初から「PURPLE THINGS」という名前で?
そうですね。ブランドを立ち上げたのが2015年。自分のペースでバイトをしながら服を作っていたので、お金ができたら新しい服を作ってという繰り返しを2年くらいやっていました。3年目からシーズンごとに展示会をするようになって、ちょうどそのくらいのタイミングでメンズにブランドを切り替えました。
———どうしてあえてメンズブランドに変えようと思ったんですか?
普段からレディースの服を着ることがほとんどなかったので、メンズをデザインすることの方がわたしにとっては自然でした。わたし自身にとっても身近なTシャツやスウェットといった、カジュアルウエアを中心に作っていきたいなと思って。
———菊乃さんはデザインだけでなく、“菊乃” として前に出ることも多いと思うのですが、ご自身の中で仕事の選択肢はどのようにバランスをとっているのですか?
もともとイエス、ノーがはっきりしていて、自分がいいなと思うこと以外に目がいかないタイプ。これまでずっと好きなことだけをやってきた結果、嬉しい選択肢が増えてきているような気がします。以前から興味のあったディレクションなどクリエイティブに関わることやモデルの仕事もちょっとずつ増えてきて、楽しみながら仕事ができています。
———ここから先は仕事をしないとか、そういうスイッチのON/OFFも生活の中ではっきりしていますか?
割とはっきりしているかもしれません。仕事はすごい好きだから毎日仕事をしていたい気持ちもあるんですけど、それ以上に好きなことをやれる時間が取れないと精神的によくないなって思っていて。そのためにも平日はしっかり働いて、土日は完全に休むようにしています。土日にどうしても仕事しないといけない時は調整しつつ、メリハリをつけることは常に意識してますね。
———OFFの時は何をして過ごしていますか?
韓国のアイドルとヒップホップが好きなので、YouTubeでひたすら見れていない映像のキャッチアップをしてます。ソファーの前でずーっと。何も考えなくてもいい。全部がダダ漏れ状態の時間を楽しんでます。K-POPとわたし、アイドルとわたしの時間、ただただそれだけです(笑)。
———SNSで発信されている菊乃さんはとても自然体な感じがするのですが、SNSから見える “菊乃” という存在と実際の “菊乃” に違いを感じることはありますか?
どうなんでしょう?でも、SNSというものに対しても無理しないようにはしていて、あんまりやりたくないことはやらない。書きたくないこと書かないし、載せたくないものも載せないので、ありのままを出せているほうだと思います。
———そういったスタンスを一貫しているからこそ、菊乃さん自身が共感できる仕事が舞い込んでくるのかもしれませんね。
そうですね。環境にもすごく恵まれて、周りの人たちがわたしのことをわかってくれているというのもあるし、大袈裟かもしれないけれど、ブランディングとしても、勘違いをされないよう「わたしはこういう人ですよ」と見せることを大事にしてきたし、してるから。本当に無理をせず過ごしていますね。
———そんな菊乃さんを悩ませたり、弱くさせるものはありますか?
あまり思い浮かばないのですが、しいて言うなら体調悪い時かな。生理前とか、それも毎回じゃないんですけど。あとは、単純に身体が疲れると辛くなりますね。睡眠時間とかもしっかりとらないとダメ。
———確かに、SNSからも健康に気を遣われている印象があります。
コロナが出てきたこの一年で、生活の見直しができるようになりました。夜遊ぶことも少なくなって、自然と早寝早起きの生活サイクルになっていったり、このくらいの時間までに食べると調子がいいとか、そういう自分の身体が悦ぶことが少しずつわかってきたことも精神的に安定する要因の一つかもしれません。
———一日の中で心地よい時間はどんな時ですか?
毎日、だいたい17時とか18時とかには仕事を終えてご飯を作り始めるのですが、そのくらいの時間がとても好きですね。この時期は外も明るくて一番好き。彼はわたしよりも料理上手なので、ほとんどの場合、わたしは隣で見てるという (笑)。二人とも家で仕事をしているので、一日中同じ家にはいるんですけど、作業している間は別々の部屋でほとんど会話もせずに集中しているので、一緒にご飯を作って食べる時間はとても大切。一緒に映画観たりとか、彼もK-POP好きなのでアイドルをひたすらみたりしている時間がとにかく幸せです。
———パートナーと過ごす上で、菊乃さんが大事にしていることはありますか?
夫婦って放っておくと会話しなくても成り立つ関係になってしまうので、意識して恋人の感覚を持ち続けることが大事だと思っています。我が家では家事を自然と分担するようにしているので、いま忙しくてできないんだろうなって思った時には何も言わずにやってあげて、逆にやってもらったらありがとうってきちんと言葉にして伝えるようにしたり。お互いに気遣い合うことを忘れないようにしたいですね。
———自宅で仕事をしているとなかなか切り替えが難しいと思うのですが、気をつけていることはありますか?
意識的に、毎朝10時から始業するようにしています。大体、6時から7時の間に起きて、8時すぎにジムに行って、9時くらいには帰ってきてシャワー浴びて、10時にパソコンの前というルーティン。そうやって決めないとやらない性格なのも分かってきたので、しっかり決めてやるようにしています。
———肌のためにこれだけは欠かさずにやっていることはありますか?
ちゃんと朝晩スキンケアすることですかね。朝起きた瞬間に顔も洗うし、ちゃんとしっかりスキンケアをして、夜も同じ。結構きれい好きなんです。だから、汗をかいたらちゃんと顔を洗いましょうとか、そういう基本的なことかな。それ以外は特にないです。
———いまの菊乃さんが思う自分自身のイメージは、10代や20代の頃と比べて違いはありますか?
変わったところももちろんあるけど、変わってないことの方が多いのかな。真ん中にあるものというのは全然変わっていないような気もするし、それを包んでいる自分の性格だったりとか習慣だったり、そういうのは少しずつ変わってきているようにも思います。10代や20代の時は、自信もなかったし、いまよりも弱くてちょっとしたことで崩れることもよくあったけれど、いまが一番生きやすくて一番楽しいかも。いまが一番いいわたしとも言えるし、これからもっとよくしていこうという気持ちもある。いまのわたしが30代になっていい人生を過ごせているというのは、10代、20代の自分が頑張ったということもあるだろうし、そこは当時のわたしに感謝しています。
———自分が思う “菊乃” と周りから見られる “菊乃” の温度差というのは昔から強く感じていましたか?
確かに、そのような周囲の目線にとても敏感になっていました。だからこそ嫌な見られ方をしているなと感じたら、瞬間的にその人から離れる。そういう人の意見は聞かなくていいし、見なくていい、絶対自分の人生に必要ないからって。逆に、やってやるぞとポジティブなエネルギーに変換できるようにしてきた気がします。
———意識的にポジティブなエネルギーだけを集めていったことで、いまの菊乃さんへと繋がっているんですね。
こういうわたしになれれば、わたしはわたしのことをいいって思えるだろうなというのを少しずつ実現させていった感じです。10代、20代前半は新しい人に会うたびに、この人はいい人かな、悪い人かな、どっちかな?というところから入っていたけど、今は人に対してそういったネガティブなことを考えることもなくなりました。きっとそれは、単純に自分が自分の理想像を追い求めて、一生懸命頑張ってきた結果。自信がついたんだと思います。他人の見方もだんだんと「菊乃ってこういう人なんだな」というふうに変わってきたように感じます。
———“わたし” という存在を確立するために、肩書きとか何者であるかは大事だと思いますか?
全然。私は将来こういう職業に就きたいなって思ったこともないし、いまも思っていない。ずっとわからないかもしれません。自分の過ごしたい時間を過ごせればいいなくらいにしか思っていないんです。ただひとつ言えることは、昔から自分にしかない感覚をすごく大事にしていて、わたしは人と違うものを持っているんだっていう根拠のない自信みたいなものだけはあったので、それを活かせる仕事というところでいまにたどり着いた感じです。
———一つのものに縛られない、その柔軟さが心地よく生きる秘訣かもしれません。
自分で何かになるというのを、なんとなく決めたくないんだと思います。何かに縛られて生きたくない。常に自分自身が心地よくいたいから、自分の好きな方向に向かってひたすら進んだ。ただそれだけなんですよね。そこから自分のやりたいことをどうやって発展させていくかも、自分次第。自分の人生は自分で責任持って、いいものにしていきたいんです。
菊乃(きくの)
写真学科を専攻後、サンフランシスコとロンドンで暮らす。帰国後、デザインオフィスで働き、2015年に自身のブランド「PURPLE THINGS」を立ち上げメンズウエアデザイナーとして活動。ビューティ、ウェルネス情報にも精通し、海外コスメも大好き。YouTubeチャンネルも更新中。
Instagram:@kiki_sun YouTube:STAY IN BED
Photographer /Shunsuke Imai
Writer /Mikiko Ichitani