Interview
あなたからあなたに
Vol.02濱本愛弓
ikawには、フィリピン語で“あなた”という意味があります。肌はあなた自身であり、あなただけのこと。あなたがあなたの味方でいること。あなたがあなたに寄り添ってあげること。
「あなたからあなたに」は、そんなブランド名に込められた“あなた”の物語を聞いてゆくインタビューコンテンツです。
第二回は、スタイリストとしてファッション誌や広告などで活躍する傍ら、自らもインフルエンサーとしてファッションの魅力を発信する濱本 愛弓さんが登場。女性らしさをベースに、唯一無二のスタイルを貫く彼女が「わたしらしく」いるために大事にしていることや、心地よく感じる時間について教えてもらいました。
———まずはじめに、スタイリストというお仕事を始められた経緯を教えてください。
私はもともと地元の大阪で美容の専門学校に通っていたのですが、在学中に髪を切ることやブローなど基本的な美容師のお仕事にあまり興味がないことに気がついて、卒業後はアパレルの会社に入りました。アパレルの販売員を3年間ほどやったころ、みんなと同じような格好をしていることにだんだんと違和感を感じてきて…。そんな時にモード誌を見るようになって、ちょうどそのころからボディを組んだりスタッフのスタイリングを見たりするようになり、「スタイリングをする仕事がしたい」と少しずつ思うようになっていきました。
———それは何歳くらいの時のお話ですか?
23歳くらいの時ですね。やっぱりモード誌のファッションストーリーへの憧れが大きくて、そういった仕事がしたいと思った時に、思い切って上京することを決めました。アシスタントは大変と聞いていたので、最初の3年間くらいはバイトとOLを掛け持ちして、お金をためてから、4年近く師匠(仙波レナさん)に就かせてもらって、独立したという感じです。
———そうだったんですね。そこまで計画的に目標に向かって進まれたというのは少し独特なアプローチですね。
そうかもしれませんね。でもやっぱり、それぞれの経験がいまに活きているなと実感しています。PCとかは販売員の時は使えなかったので、OLを経験することでエクセルやワード、電話対応といった社会の教養を教われたのでその時間が無駄だったとは全然思っていないですね。
———悩みながら選んできた経験が今につながっている?
わたしは自分の経験から、20代前半はいろいろと経験をして、いろんなことを試して、職種を変えたりしても全然いいと思っています。でも、25歳から30歳にどれだけ頑張るかによって、30代になった時に本当に自分がやりたい仕事に就いているか、就いていないかが変わってくると思うんです。
———とても緻密な人生設計をされてこられたんですね。その感覚は、スタイリングをする時にも活かされていますか?
スタイリングをするときもそうかもしれません。わたしは事前にしっかり準備して、頭の中でスタイリングのシュミレーションをきちんと立ててから、必要最低限のアイテムを借りて撮影に望むタイプです。やっぱりブランドからしたら、より多く掲載される方がいいじゃないですか。でも、私が借りると他の人が使えなくなってしまうので、どうしても多く集めないといけない撮影の時とかは本当に申し訳ないなと思いながらリースしています。
———仕事の姿勢だけでなく、コーディネートもブランドに寄り添って考えていくことが多いですか?
そうですね。自分が好きなコーディネートは、自分で発信できる場を作っていけばいいと思っていて、ブランドのタイアップだったりとか、ブランドとコラボさせてもらうという時には、デザイナーさんの人柄やブランドの目指しているものを理解して一緒にヴィジュアルを作り上げて行けたらいいなと思っています。そのような意向をちゃんと汲み取りつつ、自分のエッセンスを加えて良いものを作るのが、私はスタイリストだと思っています。
———確かに人との繋がりは、スタイリスト業の方が多いですよね。
最近はスタイリングを組むだけでなく、有り難いことに自分が前に出て発信させていただく機会もあるのですが、そういうお仕事ってモード系のスタイリストだと珍しく思われるんですよね。モードってお金持ちの人たちだけがガチガチに装いを楽しむカルチャーというイメージがあるのかなと思っていて、わたしのような一般の人がモードを楽しむ姿を発信することが何かのきっかけとなって、ファッションって楽しいんだと多くの人に思ってもらえたらいいなと思っています。そういう面でもスタイリストでありたいと思っているかもしれませんね。
———スタイリストとして見られることに関して、日々意識していることはありますか?
わたしのスタイリングのベースとなっているのが、女性らしさだったり、肌を見せることに関してもいやらしさではなくてヘルシーに見せるということを常に意識しています。あとは、自分がそういうスタイリングをしたかったら、自分もそういう人物にならないといけないと思っていて、話し方とか座り方といった仕草に対しても意識をするようにしています。
———話し方や、仕草までくまなく意識するというのは、トータルコーディネートとも言えますね。服にちゃんと自分が追いつくというような。
よく「自分にどういう服が合うかわかりません」って聞かれることがあるのですが、わたしはなんでもいいと思っているんです。最初は違和感があったとしても服がその人を寄せていってくれるので、何事にもチャレンジしていいと答えるようにしています。それって人生にも繋がっていて、仕事を辞めたいと思っていても、「私がいなくなったら誰がこの仕事するんだろう」とか考えちゃって辞められないひとってすごく多いと思うんです。でも、人生は一度しかないので、悔いが残らないようにするためには、情よりも自分の人生を優先させなくてはいけない時も来ると思っています。
———濱本さんがちゃんと自分で環境を選んで、アクションを繰り返してきたからこその説得力がありますね。
わたし自身そのように動いてきて本当に後悔がないので。自分でアクションを起こしていくと、大変な時期や、落ち込むことも自分への試練というか、そこを超えた後の自分を見てみたいと思うんです。根がMなのかもしれませんね(笑)。その生き方が自分にとって生きやすいと気がついてから、悩んだりすることもあまりなくなりました。
———それでも落ち込むことってあるんですか?
あるとしたら恋愛ですかね(笑)。恋愛はどうにもならないこともあるので、そういう時は落ち込むけど、でもそんなにずっと引きずったりとかはしないかも。「いまはご縁じゃなかったのかな。本当にご縁があれば何年後かにまたくっついたりとかそういうことがあるんだろうな」というふうに、恋愛に関してもポジティブに考えちゃいますね。
———全体的にポジティブに考えることが多いんですね。
いろいろな物事を人生という長い目線で捉えるようにしているということも関係があるかもしれません。アシスタントになろうと思ったときも、4年間かかってもその後に自分の好きな仕事ができるんだったら、人生のたった4年間だよ?というふうに考えていました。もちろんそれが耐えられる人と耐えられない人がいると思うのですが、わたしの場合はそう考えることで気が楽になったというか。仕事以外でも、30代には「こういう仕草の女性になりたい」とか、40代では「こういう振る舞いの女性になりたい」というざっくりとした理想的なものがあって。そこに向かって努力するという感じは常にあるかもしれないですね。
———20代の時に思っていた理想の30代の像はどういうものだったんですか?
周りの人から一緒に仕事をしたいと思ってもらえる女性だったり、この人から話を聞きたいと思ってもらえるような説得力のあるような女性になりたいなと思っていました。今でも勉強中ですが。
———もうすでに叶えられているように思うのですが、勉強が必要と感じるのはどんな時ですか?
中には、うまくいかない撮影とかもあるんですよ。そういう時は、もう少し自分にキャリアがあったらとか、言い回し、対応力をちゃんとすれば変わったかもしれないとか考えちゃいます。やはり、仕事をしていく上でそういう事もあるので、「それも経験!」と思いながら活かしていけるように、常に向上していきたいなと思っています。
———見せたい自分になるために立ち振る舞いや話し方を変化させようと思ったのにはきっかけとかあったんですか?
スタイリストを目指してからですね。やっぱりスタイリストって人の繋がりでお仕事をいただくことが多くて、だからこそアシスタントのうちからどういう風にみられるかというのはすごく意識しながら過ごしていました。やっぱりスタイリストたるもの自分をスタイリングできなかったらスタイリストじゃないと思っているので、今でもたくさんの方と顔を合わせる現場にはヒールを履いたりとか意識的にしています。リースの日もたくさん歩くからって疲れにくいズボラな格好をしちゃっているとそういう印象がついてしまいますからね。
———自分が思う自分と外側から見られる自分に違いや温度差ってあると思いますか?
ありますね。インスタとかで見ているだけだと、クールなイメージがあると言われるんですけど、実際は喋ることも好きだし、自分のことを包み隠すタイプでもないので。相手に心を開いて欲しかったら自分が開かなかったら相手も開かないでしょって思って、自分のことは聞いてもらったらちゃんと話すタイプですね。
———濱本さんにとって、どんな瞬間が一番わたしらしいと思いますか?
スタイリストって会社に入っているわけではないので、発信したいことや逆にやりたくないことに関して選択肢がある。そういう点では、常に自分らしいと思います。無理もしないし、自分の素を隠していないので、日常的に自分らしさは出している方じゃないかな。
———濱本さんが思う自分らしさというのはどういうものですか?
いまは自分が憧れていた仕事で有り難いことに生活をしていけているので、やっぱり頑張ったら道は開かれていくというか、そういう生き方をしてきた自分が好きです。
———はっきりと好きって言えるのは、ちゃんとそうやって歩んできたからですよね。
そうですね。だからそういう部分をもっと若い子とかに伝えていく場をこれからも作っていけたらと思っています。私はファッションがこんなに好きで、こんなに人生が変わるんだよというのを発信できる人になりたいなと思いますね。
濱本 愛弓(はまもと・あゆみ)
スタイリスト。美容学校を卒業後アパレルブランド勤務を経て2014年よりスタイリストの仙波レナ氏に師事。2018年に独立し、モード誌やファッションメディアを中心に幅広く活躍中。2020年より自身のブランド「ヒロサイ」を立ち上げる。
Instagram:@ayumi6316
Photographer /Shunsuke Imai
Writer /Mikiko Ichitani