Interview
あなたからあなたに
Vol.06結城アンナ
ikawには、フィリピン語で“あなた”という意味があります。肌はあなた自身であり、あなただけのこと。あなたがあなたの味方でいること。あなたがあなたに寄り添ってあげること。
「あなたからあなたに」は、そんなブランド名に込められた“あなた”の物語を聞いてゆくインタビューコンテンツです。
第六回は、10代からモデルとして活躍し、結婚後は専業主婦として家庭を優先する時期を経て、60代から本格的に芸能活動を再開された結城アンナさんが登場。おしゃれアイコンとして、雑誌やテレビ、SNSを通して自身のライフスタイルを飾らずに発信する彼女に、日常の中で幸せを感じる物事の見方や年齢を重ねて見えてくる世界の変化について教えてもらいました。
———10代のころからモデルとして第一線で活躍されていた結城さんが、30代できっぱりと専業主婦として表に出るお仕事から距離を置かれた、そのターニングポイントはどういったものだったのでしょうか?
21歳で子供を生んでから数年は両立していたのですが、もっとママとしての時間を過ごしたいと思ったのがきっかけ。その頃から夫の仕事もだんだんと忙しくなってきていたこともあり、そのタイミングでした。
———自然と家族との時間を大事にされたということですね。では、そこから30年ほど専業主婦として家族を中心とした生活をされたのちに、60歳を迎えてから本格的に芸能活動を再開されました。復帰にはどのようなきっかけがあったのですか?
昔お世話になっていたモデル事務所の女社長さんとばったり会って、「またお仕事すれば?」と声をかけていただいたんです。最初はマネージャーとしてかな?とも思っていたんですけど、よくよく話を聞いたらそうじゃなくって、「今は年寄りでもモデルするのよ」と言われて(笑)。きっかけはそんな感じだったんですけど、いろいろなタイミングが重なったことで背中を推された気がします。世の中の流れとしても、ちょうどそのくらいの頃から幅広い年齢の方が、おしゃれを楽しんだり、ライフスタイルを発信されるようになっていたので。あとは個人的な話ですが、長年介護をしていた母が亡くなって、自分の時間ができたという生活の変化も大きなポイントでした。それら全てが揃っていなければ今のわたしはなかったと思います。
———そういった同世代やさらに上の世代の方の活躍というものは、結城さんご自身にとってもポジティブなエネルギーになっていらっしゃったのですか?
雑誌などのメディアにわたしと同じくらいか少し上の方が出ていると、どういう生活しているのかなとか、どういう洋服を着ているのかなとすごく気になっていました。見るとやっぱり元気が出ますし、「そっか、そういうふうにすればいいんだ」ってヒントがもらえたり。そんな大それたことをしなくても、皆さんそれぞれ楽しくやっているんだなと思っていました。
———年齢の重ね方について今思うことと、20代の頃に感じていたことに変化はありますか?
多分当時はもっとみんなと比べていたり、こうしなくちゃいけないと思い込むことがたくさんあったと思います。それが、今は自分が良ければいいじゃないと思えるようになりました。歳をとっていくと、他の人と比べるというよりも、自然界と比べるようになってくるんです。動物だったり、植物だったり。「みんなこうやって生まれて、歳とっていくんだな」ということを身近に感じるようになって、やっぱり人間って動物なんだなって、最近すごく思うようになりましたね。
———そういった物事の見方はだんだんと自然に変化したのですか?
そうですね。最近読んだ記事のなかで、建築家のフランク・ロイド・ライトの「生きれば生きるほど世界が美しく見える」という言葉に共感して、まさにそれだなと。「ここも美しい!」「あそこも美しい!」「わー!なんか素敵!」って。それらのもの自体は昔から存在していたけれど、わたしがそんなふうに物事を見る余裕がなかったのか、違うもののほうが大事と感じていたのか、改めて今はどこを見ても素晴らしいなとか、本当に美しいといつも感動しているんです。それが歳をとるということなのかな。最近はそんなふうに感じています。
———誰かと比べることはマイナスな気持ちになることもあれば、エネルギーのきっかけになることもあると思うのですが、当時を振り返ったときにそれらの感情について改めて思うことはありますか?
比べることで自分もしっかりしなくちゃいけないとか、自分でこういうふうにできるようにならなくちゃいけないなって気付かされる部分はいいことですよね。元気がもらえることもあると思います。ただ、他の人との違いに落ち込んだりとかはしなくていい。違うということは悪いことではないし、色んな人がいて、体の形、肌の具合や髪の毛の質だとか、いろんな違うことがあるけれど、これが一番いいということは何一つないので。だからこそ、きっと一人ひとりが自分の良さを出すことがすごく大事なのかなと思っています。必ずみんなにありますから。
———他人の良さを見つつ、自分を肯定して見つめ直すということが自分自身を受け入れることにつながるんですね。
人っていろんな格好や、いろんな人物を演じながら自分らしさを見つけて生きていると思うんですよね。それも一つの大事な部分であって、若いときはそれでいいんですよ。素敵だなと思う人を真似してみたり、ちょっとしっくりいかないなら今度はあっちをやってみようっていろんなことを体験して、少しずつ自分を進化させていく。自分に合う形を見つけることを遊びの一つとして楽しめたらいいのかなって思います。
———レシピを公開されたりと、お料理を楽しみながら食事にも気を遣われていらっしゃると思うのですが、それは20代の頃からですか?
実は夫と出会った頃はお料理が全然できなかったんです。だから、最初はテレビで紹介されるレシピを練習して、少しずつ覚えていきました。子供にはお野菜をたくさん食べさせなきゃという意識はありながらも、疲れたから今日はピザを頼もうなんて日もありましたよ。
———結城さんの料理は食材やプロセスもシンプルなものが多く、レシピも無理せずに真似できそうなものが多くて楽しいです。
あまり特別なものとかすごく高い食材を当たり前のように使っていても楽しくないじゃないですか。「これがこんなになるのよ!」という発見や驚きが楽しいわけで、なんてことのないような材料で素敵なものを作り上げるというのがすごく楽しいことだなってわたしは思うんです。
———暮らしを楽しむなかで、仕事と家庭、趣味の時間といろいろな時間があると思うのですが、結城さんの中で今とても大切にしているのはどういう時間ですか?
わたしはそれらを切り分けることができないので、全体のバランスが取れていればそれでよしという考え方なんです。だから、仕事も大事ですし、家庭も大事ですし、健康ももちろん大事。なんか調子が悪いなぁと思えば健康が一番大事になるし、大きな仕事を受けたときには、忙しくても最後までちゃんとやらなくてはいけないので、「ごめん、今日は仕事があるから自分たちでどうにかして!」というように相手の力も借りて日々のバランスをとっています。心の中ではもちろん、家族が一番だと思いながらも、仕事も家族のためですし、自分の健康だって家族のため。そこはすごくホリスティックにバランスよくやっていきたいなというふうに考えています。
———では、プライベートもお仕事も含めて一番自分らしいなと思えるときめく時間はどういう瞬間だと思いますか?
わたしは自分の家のなかで過ごす時間が大好きなんです。家の中でうろうろしながら何かをやって、飽きたらこっちをやってみて、今度はあっちの部屋に行ってこれをやってみようとかって過ごす時間が、一番自分らしくて身体も楽。時間帯でいうと朝は動き回れるけど、午後は少しずつゆっくりになってゆくので、メリハリをつけて日常を過ごすことが自分にとって心地よい瞬間です。それぞれの時間の使い方が上手にできるといい1日だったなというふうに感じられますね。
———朝はどのように過ごされていますか?
朝は白湯を飲んで、ケールのスムージーを作って飲んで、カフェラテを飲みます。その間にワンちゃんにご飯をあげます。あとは新聞を読んだり、メールを読んだりして過ごしています。基本的にはキッチンを拠点に朝の時間を過ごしています。
———日常の中で最近感じた幸せな瞬間はどのようなものですか?
目が覚めるとカーテンから素敵な光が入ってきて、布団をめくるとそこにワンちゃんが寝ていて、温もりを感じる。そういう小さなことに毎日幸せを感じています。まさに、“I Love my life!”。これはどなたでもできることですし、習慣にすれば自然とそういうふうになっていくのでおすすめです!
———素敵ですね。ほかにも実践されている心身ともに健やかさを保つために意識されていることはありますか?
食事と水分をいっぱい取ることと、質の良い睡眠をちゃんと取ること、あとは適当な運動。精神的なケアとしては、ちょっとしたメディテーションみたいなことをやっています。全てが生活の一部になっているので、何かが欠けるとどこか調子が悪くなるように感じます。
———メディテーションなどはここ数年で多くの方に認知されてきていると思うのですが、結城さんは割と昔から取り入れていらっしゃるのですか?
メディテーションという名前がつくと少し大袈裟な印象があると思うのですが、お風呂とかでホッと一息ついて「今日のわたしはどうだったのかな?」とか、「あのときはこういうふうに言ったけどそれでよかったのかな?」ってちょっと思い返してみたり、反省してみたりすること。しっかり深呼吸して、ゆっくりとストレッチをしながら、いろんなことを一人で考えたり、思いめぐらせたりすることを私はメディテーションだと思っています。それは昔から自然と習慣にしてやっていました。
———そのようにその日あったことを意識的に積み重ねていくと、自分自身にも自然と向き合う機会が増えると思うのですが、周囲の人からの印象と自分の思う自分との間に差があるように感じたりすることもありますか?
できるだけブレないように本当のことをSNSやこういうインタビューでも発信していきたいとは思っていますが、やはり人間なので悪い部分も変な部分も楽しい部分もいい部分もあります。その全てがわたしなので、変なふうに見えることがあるかもしれないけど、それもわたし。そういう感じで考えています。
———いいところも悪いところも人間だからこそというふうに揺らぎを受け止めていらっしゃるんですね。
他の人を見るときもパーフェクトというのはないし、反対にパーフェクトがあったらすごくつまらないと思うんですよね。だから、気にいらなかったらその人と一緒にいなければいいし、それぞれが選ぶことができるので、もうみんなありのままでいいと思うんです。
———ご家族など身近な人とのコミュニケーションで大切にしていることはありますか?
コミュニケーションってすごく難しいですよね。あまり近くに来てほしくないという人もいれば、全てをオープンに話さないと気が済まない人もいます。それこそバランスなんですけど、みなさんそれぞれの境界線があるので、どこがその人の境界線かということを知るべきだし、自分の境界線も相手に教えなくちゃいけないと思います。「ここまではいいけど、ここからは入らないでね」「あなたはここまでよ」というようにどこかではっきりすると大きな衝突も避けられるような気がします。
———相手のことだけでなく、自分のなかのリミットを見定めることも大事ですよね。
自分の境界線も作っておかないと疲れちゃうので、自分を守るためにも境界線は大事。例えば門のように、相手や時と場合によって開け閉めできる扉を自分の中に作っておくといいのかなって思います。
———それはすごくいいアドバイスですね。では、現在の結城さんにとってご自身を弱くするものや強くさせるものはありますか?
自信があるときというのは気持ちも強いんですよね。自信がないときは本当に弱くなっちゃいます。で、やっぱり自信があるときってすごく元気で健康なんです。調子が悪いと自信がなくなっちゃうし、精神的にも肉体的にも健康を保つことがすごく大事。だから、食・睡眠・水分全てが関係しています。
———健康のバランスを保っていられるか、崩れちゃうかによって弱く傾くときもあれば、自信につながって強くいられるんですね。
ただ、自信があるときってなぜだか根拠のない自信が湧いて、妙に大きなことを言っちゃうようなときもあります。反対に、自信がなくなったときは「なんでだろう」って立ち止まって考えたりだとか、新しい考え方が生まれることもあるので、自信があることもないことも両方とも悪いことじゃないし、必ずしもいいということでもない。そんなものかなというふうに感じています。
———肌の健康のバランスを取るために欠かせないことはなんですか?
肌には保湿と紫外線の予防。あとは夜にしっかりとお化粧を落として寝るということ。わたしは66年間一度もお化粧をしたまま寝たことはないんですけど、意外と落とさずに寝てしまう方もいるみたいなので。肌も疲れているだろうし、1日の汚れと一緒に今日あったことは洗い流してから寝るということがわたしにとっては大事。少しずつ寝る時間に向かっていくためにもそのプロセスが必要なんです。
———では、寝る前に考えていることや思い巡らせることはありますか?
大好きなシーツと大好きなパジャマ、ふかふかの布団の中に入って、お部屋を暗くして静かにワンちゃんを抱っこしながら眠れることが、どれだけ幸せなのかなと思いながら毎日寝ています。そのくらいかな。本当になんでもないことだけど、いつも考えています。
———最後に、今の夢やこれからやりたいことはなんですか?
今の状況にはすごく満足していて幸せなので、このままいければいいなと思いつつ、新しいチャレンジの機会があったときにそれを試みることができたら一番いいかなと思っています。大きな夢と言ったら世界平和。今はとくに世界中が混乱している中で、とにかくどの国も戦争だけは止めてほしいと切に願っています。だからこそ、「SDGs 17 GOALS」にはすごく大きな意味があって、それを一つずつ読んで、こういうことをやっているんだなとか、どういうふうに大事なんだろうなってことを理解することが大事なのかなと思います。
———一つひとつに意味があって、目的がしっかりあるので、それをまずは理解することがまず一歩進んでゆくアクションにつながっていきますよね。
家庭の中でも平和でいましょうって努力することで、いい方向に少しずつでも向かうんじゃないかなと思います。
結城アンナ / タレント
1955年スウェーデン生まれ。10代からモデルとして活躍。夫は俳優・岩城滉一氏。60歳を迎えてから、初の著書『自分をいたわる暮らしごと』(主婦と生活社)の出版を皮切りに、本格的に芸能活動を再開。メディアやSNSで自らのファッションや心地よいライフスタイルを発信し、そのシンプルで自然体な暮らし方は世代を超えて支持される。自身の描くイラストも注目を集めている。2022年3月初のレシピ本となる『Anna's Cookbook 季節の食卓』(主婦と生活社)を出版。
Instagram:@ayukihouse
Photographer /Tetsuo Kashiwada
Writer /Mikiko Ichitani