Interview

あなたからあなたに - 花盛友里

あなたからあなたに

Vol.11花盛友里

ikawには、フィリピン語で“あなた”という意味があります。肌はあなた自身であり、あなただけのもの。あなたがあなたの味方でいること。あなたがあなたに寄り添ってあげること。

「あなたからあなたに」は、そんなブランド名に込められた“あなた”の物語を聞いてゆくインタビューコンテンツです。

第十一回は、広告や雑誌などの撮影現場で活躍するかたわら、「脱いでみた。」などご自身らしいアプローチでの作品制作も精力的に行い続ける、写真家の花盛友里さんが登場。目の前の人との対話を大切に唯一無二の表現を続ける彼女に、作品作りを続けるモチベーションや日常生活のこだわりなど、幅広くお話をききました。

———まず最初に、写真の仕事を目指すようになったきっかけを教えてください。

中学生のときにおもちゃみたいなカメラをもらったのが最初。そこから写真を撮るようになって、16歳でアメリカに留学したのですが、そこで一眼レフと出会ったことで、どんどん写真の楽しさを知って……気づいたらいまここ、という感じです。

———写真の専門学校にも通われたんですよね。

最初から「カメラマンになるぞ!」と思っていたわけではなかったのですが、写真が好きだから勉強したくて、学校に入ったら自然とゴールがこの仕事に就くことになっていました。実際にカメラマンとして働くようになってからは苦労することが多かったです。

———どういった苦労があったのでしょうか?

学校を卒業してから数年間、スタジオマンとして働いていたのですが、そこで出会うカメラマンさんたちの多くが、仕事として写真を撮っているだけで写真があまり好きじゃないような気がして、その気持ちのギャップが辛かったですね。こんな感じだったらカメラマンにならなくてもいいかもしれないと思い、24歳で一度スタジオマンを辞めて、ニューヨークでぷらぷらしていた時期もありました。

———ニューヨークで新たな気づきや発見はありましたか?

すごく楽しかったですが、環境が変わっても結局は自分なんだと改めて実感しました。変化を期待して行ったはずなのに、バイトばかりして、遊んで、飲んで、仕事してと、日本にいるときと全然変わらなくって。結局、場所じゃなくて自分自身が変わろうと思わないと何も変わらないんだと気がつき、日本に帰ることにしました。

———そこからもう一度写真の道に?

はい。ロケアシなどをしながら、知り合ったカメラマンさんにブックを見せたりしていました。それでも4年くらいは全然仕事がなくって、本当に毎日が不安でした。「わたしの写真は本当にいいのかな」って自信がなくなったりもして、自分の写真をみていてもよく分からない時期もありました。

———ご自身のなかでターニングポイントはありましたか?

30代手前くらいから少しずつお仕事をもらえるようになっていって、ようやくこれからというときに妊娠したんです。驚いたし、はじめは辛かったですね。でも、今振り返るとあのタイミングだったからこそ、きちんと自分を確立して、写真をちゃんと認めてもらわないと忘れ去られてしまうという焦りを感じて、「寝起き女子」や「脱いでみた。」といったシリーズを撮り始めるきっかけになったのかなと思います。

———写真を撮るうえで変わらずに大切にし続けていることはありますか?

写真を楽しいと思うこと。撮影するときがめっちゃ楽しいし、その気持ちがモデルさんにも伝わって表情も良くなっていくので、その気持ちはずっと大切にしています。

———純粋に楽しいという気持ちを抱き続けていられるのはなぜだと思いますか?

仕事がなかった時期があって、妊娠して、産んでからまた全部仕事がなくなって。そこからもう1回営業し直して、やっとまた確立されたという意識が強いからこそ、今は常にお仕事ができて嬉しい!と素直に思えます。

———「脱いでみた。」シリーズは花盛さんにとってどのような存在ですか?

自分自身に帰れる場所というか、確認作業みたいな感じ。一般の方をモデルに、プロのスタイリストさんやヘアメイクさんを入れずにふたりきりで撮っているので、そういう状態でもちゃんと撮れるということを定期的に確認することで、自分自身の成長を感じることができるのかなと。行ったことのないスタジオを選んでいたりもするので、本当に毎回が挑戦ですね。

———モデルさんはどのように選ばれていますか?

例えば、来週の水曜日に「脱いでみた。」撮ります!というような募集をSNS上でかけて、先着順で撮影しています。基本的な参加条件はお伝えしているので、それ以上のことは事前に聞いたりしません。SNSを探して顔を確認したりすることもないし、当日扉が開くまでどんな子が来るかは分からない。志望動機をどれだけ書いてもらっても、選ぶルールはあくまで先着順。そこがブレるとやりたいことがちゃんと伝わらない気がして。ちょっとでも嘘があると作品を信じられなくなると思うので、そこは気をつけています。

———9年以上続くシリーズですが、撮り続けるモチベーションはどこにあるのでしょうか?

撮影してきた人数が増えることによって、その子たちの想いもどんどん大きくなっていってるのと、見てくれてる人が増えて、その子たちの想いもどんどん強くなっている。わたしも伝えたいことがどんどん増えていっているので、やめるという選択肢はもうないですね。

9年前よりも“ありのまま”という言葉がよく言われるようになったけれど、その分加工技術も進化して、アイドルのように細くて、綺麗な顔への憧れは増しているじゃないですか。マスクを外した顔を見せられないという子も多いし、子供たちが育っていく未来がすごく不安です。だからこそ、「脱いでみた。」のようなコミュニティが大きくなって、当たり前にこういう価値観もあるんだということを子供たちが簡単にリーチできるような世界になってほしい。わたしの作品を通して実際に「すごく楽になった」と言ってくれる人も多いので、これはずっとやっていきたいなって思います。

———今年は個展も開催されましたが、いかがでしたか?

SNSを通してリアクションをもらっても、本当に届いているのか分からない部分もあって不安に感じることもあるのですが、今回は本当に多くの方に来場いただいて、実際にお話をさせていただいたり、感想を書いてもらったりするなかで、みなさんにきちんと届いていることを実感できたことがすごく嬉しかったです。続けていく気力にもなったし、そういう場を作れたことが嬉しかったですね。

———ふたりのお子さんたちの反応はいかがでしたか?

下の子はまだ全然分かっていないと思いますが、小学校3年生の長男は個展にもきてくれて、私の作品やまわりの人の反応を誇りに思ってくれているみたいです。作品のコンセプトも理解できるようになって、ルッキズムに悩む年頃でもあるので、そういった見た目じゃないところに人の良さがあるということをこの作品を通して息子やほかの子供たちにも届けられたらと改めて思いました。

———こういった価値観が次の世代のスタンダードになっていって欲しいですよね。写真家としてだけでなく、二児の母、そして妻としても忙しい日々を送っていらっしゃると思いますが、日常のなかでオンオフはどのように意識されていますか?

ルーティンをすごく大事にしているかもしれません。月曜日から金曜日までの平日は、仕事も家事も頑張って集中するようにしていて、毎朝5時半くらいに起きて、30分間自分の時間を作ってメールやインスタを確認したりして、そのあとに犬の散歩をしてから子供たちを起こして、朝ご飯食べさせて、仕事に行って、夜はお迎えに行って、家事は全部21時までに終わらせて、21時にベッドにみんなで入って一緒に寝て、また朝起きてというのを平日は完璧にやりたいんですよね。

———かなりハードスケジュールですね。

3時間のあいだに家事を全部終わらせるのは本当に大変。だから、平日はすごくバタバタしているし、お酒も飲まない。その分、金曜日の夜からは解禁してガブガブ飲む。もう別人です(笑)。土曜日は何もしなくて、ずっとソファにいたりします。で、日曜日の夕方くらいから溜まった洗濯物を畳みだして、また月曜日を迎えるという感じです。

———そういったサイクルはお子さんが産まれてからですか?

この生活をするようになったのは、ここ3、4年ですね。それまではやっぱり土日や子供を寝かしつけたあとも仕事をしたいと思っていました。でも、土日休まないと自分の機嫌が悪くなることに気がついて、自分が入れたくて仕事入れたのにイラついてたりとか、あと月曜日の撮影が楽しみじゃなくなっちゃう。今となっては土日も働くとかはもう信じられないですね。

———家族とのコミュニケーションで大切にしていることはありますか?

子供たちには日々怒ってばかりだからこそ、お互いの調子がいいときはちゃんと気持ちを言葉で伝えるようにしています。寝る前に一緒に絵本を読むようにしているのですが、そういった時間に、「おやすみ、宝物たち」と声をかけて、朝も起きたら全力で可愛がる。だいたい10秒後くらいには怒っていたりするんですけど(笑)。可愛がれるときは全力でやるようにしています。

———一日のなかで一番好きな時間を教えてください。

寝る前。絵本を読んだあとに下の息子が寝るときの歌を歌ってくれるんですけど、それを聴いている瞬間が幸せです。

———スキンケアで大切にしていることはありますか?

最近は兄弟でお風呂に入ってくれるようになったので、湯船に浸かって自分をケアする時間を大切にしています。お風呂に入りながらマッサージしたり、動画を観たり。お風呂を出てからの保湿も全身からデリケートゾーンまでしっかりするようにしています。

———花盛さんにとって心地よい人とはどういう人だと思いますか?

いい自分も悪い自分も隠さずに、日々ちゃんと自分のことを考えて生きている人に惹かれますね。人って常にトライアンドエラーで生きているからこそ、経験が今につながっているということが見えるような人が好きです。そういうバックボーンや内側が見えるからこそ、周りも自分をさらけ出してもいいんだと思えるし、人間味がある。わたしもそういう人でありたいですね。

———最後に、これからやりたいことや将来の夢はありますか?

将来の夢は写真館を開くこと。ニューボーンフォトとかも勉強中なのですが、ヌード、マタニティ、ニューボーン、遺影まで人の一生を撮れる人になりたいです。あとは、「脱いでみた。」で海外にも行ってみたい。撮影だけでなく、海外で個展もやりたいです。

花盛友里 / 写真家

1983年、大阪府生まれ。中学時代から写真の楽しさに目覚め、2009年よりフリーランスとして活動開始。女性誌や音楽誌、広告などで主にポートレートの撮影を手がける。2014年に出産を経験し、現在は二児の母として仕事と家庭の両立に奮闘中。同年、自身初の写真集『寝起き女子』(宝島社刊)を発売。2023年3⽉には『脱いでみた。』で⾃⾝四度⽬の個展を開くなど、活躍の場を広げている。

HP:YURI HANAMORI Instagram:@yurihanamori

Photographer /Eri
Writer /Mikiko Ichitani

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