Interview

あなたからあなたに - コーラ小林

あなたからあなたに

Vol.12コーラ小林

ikawには、フィリピン語で“あなた”という意味があります。肌はあなた自身であり、あなただけのもの。あなたがあなたの味方でいること。あなたがあなたに寄り添ってあげること。

「あなたからあなたに」は、そんなブランド名に込められた“あなた”の物語を聞いてゆくインタビューコンテンツです。

第十二回は、クラフトコーラのパイオニアとして知られる「伊良コーラ(いよしコーラ)」代表のコーラ小林さんが登場。コカ、ペプシと並ぶ世界3大コーラを目指して常に邁進し続ける彼に、コーラ作りを始めたきっかけから、ライフスタイル、これからの目標まで幅広くお話をききました。

———まず最初に、小林さんのこれまでについて教えてください。

東京の下落合という街で生まれて、高校は東京学芸大学の付属学校に。大学は北海道大学で、途中1年ぐらい休学してフィリピンのカミギン島でインターンをしたり、ニューヨークで英語を勉強したりなどしていました。日本に帰ってきてからは東京大学の研究室に2年間在籍し、その後広告会社に入社して、2018年からフードトラックで伊良コーラを出店するようになりました。

———まるで旅をしているかのような経歴ですね。今では2店舗を構える伊良コーラですが、その軌跡も教えてください。

最初は自作のシロップで作ったコーラをフードトラックで販売するということを兼業でやっていたのですが、会社を辞めてコーラ一本に。そこからは業務用のシロップの販売を始めて、瓶詰めしたシロップやすぐ飲める瓶コーラを作りました。今年の春にようやく缶コーラが完成して、現在はナチュラルローソンさんや銭湯、サウナ、ゴルフ場……あとは最近渋谷にある「頭バー(ズバー)」というDJバーなどで取り扱いが少しずつ始まっています。

———この5年間で本当にいろんなことがあったんですね。大学では農学部に在籍されて、東京に帰ってきてからは生命科学を研究されていたとのことですが、なぜその分野を学ぼうと思われたのですか?

魚を釣ったり、虫を捕まえたりするのが子供の頃から好きで、シンプルに農学部を目指しました。最初は国連の職員など農業に関連する公務員になろうと思っていて、フィリピンに行ってそういう活動を行うNGO団体にインターンとして参加してみたのですが、そのシステムに違和感を感じてしまって。

———システムというのは?

NGO団体や国の機関というのは、基本的には税金で賄われているので、サービスの対価として金銭が発生するわけではないんです。だから極端なことを言えば、いいサービスじゃなくても運営が成り立ってしまう。それってなんか不健全だなと思ってしまって……。ストレートにサービスの対価としてお金をもらう方が、自然のシステムに似ているなと思ったんです。そこから資本主義の仕組みに興味を持つようになって、昔からいろいろとアイディアを考えることが好きだったので、「このアイディアを形にできる仕事はなんだろう?」というところから、広告代理店で働くことを決めました。

———一つひとつの選択にきちんとロジックが通っているんですね。小さい頃から、自分でいろいろなことを考えて、分析するようなタイプでしたか?

そうですね。昔から「なんだろう?」と思ったらすごい考えるような子供で、いつもいろんなことに興味を持っていました。自然が好きというのも、自然はすごく不思議なことだらけなので、自分の好奇心を満たしてくれるような対象だったというのも大きいと思います。

———そんな小林さんがコーラにここまでハマったのには、どういったきっかけがあったのでしょうか?

もともとお酒があまり強くないので、お酒の場ではいつもコーラを飲んでいたり、偏頭痛に悩んでいたときに、コーラが効くというような話を聞いたりときっかけはいくつかあります。でも、一番衝撃を受けたのは、フィリピンでカミギン島や電気も通っていないような山奥に行ったときにも、コカ・コーラの赤いトラックが走っていたこと。「こんな山奥でもトラックが普通に走っているってどういうこと?」と驚くと同時に、コーラって一体なんなんだろうという疑問が浮かんだんです。謎の液体なのに、みんな普通に飲んでいるその現象自体が面白いと思って。そこからどんどんコーラにハマっていきました。

———確かに、全世界の都市部から田舎までどこに行っても置いてあるというのは唯一無二ですよね。しかも、何が入っているのかは分からずにみんなが普通に飲んでいるという。そこから自身でレシピの研究を始められたんですか?

少し時間は開いたのですが、社会人1年目のときにネットサーフィンをしていたら「コカ・コーラ社から漏れ出した秘伝のレシピ」というような見出しをアメリカの都市伝説のサイトで見つけて。そのなかには、シナモンやコリアンダーといった僕でも知っているスパイスが並んでいて、それを見た時に自分でも作れるんだと思ってやってみたのが始まりですね。

———初めは仕事ではなく、好奇心からそこまでコーラ作りに没頭できたのはどのようなモチベーションがあったのでしょうか?

モチベーションの理由には二つあって、シンプルに趣味としてスパイスカレー作るみたいな感じでハマっていたというのがひとつ。もう一個は、当時は言語化ができていなかったのですが、これはビジネス的にすごいことになるなということを薄々直感的に感じていたから。なぜなら、当時は商品としてのクラフトコーラという概念がなかったんです。厳密に言うと、インド料理屋さんで手作りコーラを出す店があったり、クラフトコーラという言葉自体はあったのですが、ビジネスとしてここまでこだわって作ったものは世界中にもまだなかった。それに、コカ・コーラとペプシ・コーラの存在が大きすぎて誰も参入してこないみたいな。ただ、これをクラフトコーラという文脈で攻めたらいけるんじゃないかというのを感じていて。さらにはお茶や日本酒、醤油といった日本が誇る飲食の文化がたくさんあるので、これらを掛け合わせたらグローバルに勝負ができるのではないかと直感して、ワクワクしていました。

———最初の頃からクラフトコーラというものに未来を感じていたのですね。この春には缶コーラも発売し、ますますブランドとして拡大していますが、伊良コーラのオリジナリティを保ちながら世界へ勝負することの大変さはどういう部分にありますか?

多くの中小企業がコーラの世界で挫折する理由は、コカ・コーラとペプシ・コーラと同じやり方で勝とうとしているから。それでは負けるに決まっているので、全然違うアプローチを見つけないといけないんです。缶飲料の製造ひとつ見ても、大きなタンクに水と加糖ブドウ糖液糖という砂糖と香料を入れて、一気に作るというのが常識。でも、その常識を守って作るとクオリティ的にもオリジナルの劣化版にしかならない。その点で伊良コーラはもともとスパイスから調合して作っているので、そのスパイスの感じをいかに缶に落とし込むかというところに注力して開発を進めました。

———さらに今年はプロアングラーの方とのスポンサー契約も結ばれました。スポンサー契約と聞くとそれこそコカ・コーラやレッドブルといった巨大企業のイメージがありますが、ブランドの成長のために新たな仕掛けを生み出す原動力はどこにあるのでしょうか?

こういうふうになった世界を見てみたいという好奇心と本当にこれでいいんだっけ?というちょっとした疑問が原動力になっていると思います。大手に寡占されている業界や、コカ・コーラにしてもレッドブルにしても外資系の企業ですし、外に日本のお金を流すのではなく、日本発のブランドがこういった位置を担っていけるようになった方がいいのではないかという想いが大きいです。

———社会全体に対して自分たちの力で何か変えられるものがないかと日々考えていらっしゃるんですね。そういったアイディアはどういうところからインスピレーションを受けていますか?

ひとつは学生時代に観た映画。映画研究会に入っていたほど映画が好きで、『素晴らしき哉、人生!』という古い映画や『華麗なるギャツビー』、ピクサーの映画などからも刺激を受けましたね。あとは、学生時代にバックパッカーをしてアメリカや南米を旅したことがあって。そこで見たことや感じたことは今の自分にもすごく影響を与えているなと思います。どちらも共通するのは旅。映画は内面への旅だと思っていて、外へも中へも旅をするということは僕にとってインスピレーションの源になっていると思います。

———特に思い出に残っている土地はありますか?

アメリカのインディアン居留地として知られるプエブロでは、建築方法や色使いが全然違っていて刺激を受けました。建物にパステルカラーが使われていたりするのですが、日本では女性っぽいイメージを持たれがちな色もそこで見ると本当にかっこよくて、世界には当たり前ってないんだと実感することができました。

———そういった文化の違いに触れていくことで物理的にも精神的にも世界が広がりますよね。

日本人は特に、「こうあるべき」とか、「こうした方がいい」といった型が多いと思っていて、それを自分の力だけで外そうとしてもとても難しい。僕自身、10代の頃はそういう風潮を辛く感じる部分もあったのでよく分かります。自分自身や環境を変えるためにも、開けた思考を持つ人と会ったり、海外など別の場所に自分から足を運んで刺激を受けた方がいい。いろんな人に会うことといろんな場所に足を運ぶこと。きっとその二つだけでしか思考の型というのは外せないんじゃないかなと思います。

———お話を聞いていてすごく真っ直ぐでブレない印象を受けたのですが、小林さんが思う自分自身と外側の周りの人たちから見られる自分の印象。そこにはどういうギャップがあると思いますか?

僕のことを知っている人からは、熱い想いを持っているとか、結構人間臭いと言ってもらえることが多いのですが、外側の人からはぶっきらぼうで、クールな人に見られることが多いですね。

———お話が簡潔明瞭なので、さっぱりした人に思われるのも少し分かる気がします。普段の生活でオンとオフはつけていますか?

実は最近オンオフについて考えていたんです。正直、この仕事をしていると常に臨戦態勢でいないとダメなのかなと思っていて、ご飯を食べたり、映画を観ていても何かヒントやインスピレーションになることがあるとついついメモをとってしまうほど。この状態を解いてしまうと、自分が目指すところにいけないんじゃないかと考えていたのですが、最近は逆に完全にオフの時間を作った方が、予想外との遭遇ができるという可能性もあるので、むしろそっちを大事にした方がいいのかもって思い始めて……。どっちがいいんですかね(笑)。

———寝る前に考え事をしますか?

しないですね。もうぱっと寝ちゃいます。

———何か悩みがあって寝れないということもないですか?

前は考えこんでしまうこともありましたが、最近は「どうせ一晩寝たら悩みも薄れていくだろう」と思えるようになったので、あまり考えこまないようにしています。

———悩みともポジティブに向き合えるタイプなんですね。小林さんが日々の中で一番好きな時間帯はありますか?

日曜日の朝が好きかもしれません。日曜日の朝に車でオフィスに行って、誰もいないオフィスでコーヒー飲みながら、作業をしてる時間は結構好きです。

———今年は子供向けの絵本「イチからつくるコーラ」が出版されましたが、子供たちに向けて作られたのはなぜですか?

それこそ今の日本は型が多くて生きづらい面もまだまだ多くあると思うんです。子供ってすごく柔軟なのに、その型にはまっていってしまう。経済も世の中のムードも下向きに、暗くなってしまっている今だからこそ、楽しい未来があることや、自分が本当に好きなことややりたいことがあったら、それを突き進める道があるということを示すことが子供たちにとっても助けになるんじゃないかなと思って作りました。

———好きを仕事にしていいんだと大人が背中を見せることで希望が生まれますよね。ここからさらにやっていきたいことや目標はありますか?

もっと日本の薬草文化や生薬の文化を深掘りしていきたいと思っています。今、「日本を、飲む。」というテーマで日本中を回って、薬草を摘んだりしているのですが、その活動を加速させつつ、どんどんバージョンアップをしていきたいです。その一つとして、漢方の職人だった祖父の地元・長野県伊那市にそういう活動の拠点を作りたい。また、「日本を、飲む。」で採取した薬草をお酒に漬け込んでハーブチンキのようなものを作って、店舗で味変のカスタムをできるようにしたりとかやってみたいですね。

———薬草や生薬にまで視野が広がっているのにはきっかけなどあったのですか?

「日本を、飲む。」で日本を回っているうちに、日本特有の薬草文化が失われつつあることに気がついたことがきっかけです。薬草を栽培している人の人数は減っていたり、昔はどくだみとかをお茶にして飲んでいる人がたくさんいたのに、今はあまり飲まれていないといった話を聞いて、日本古来の素材や文化を生かして、コーラの発展に繋げられたらいいなと思うようになりました。実際にコーラも漢方ドリンクなので親和性もありますしね。

———確かに、スパイスですもんね。

大手のコーラ飲料も基本的には、漢方ドリンクの香りと味をいわゆる香料で再現してるもの。アパレルで例えるなら、バスケットシューズは本来コートで履くものだけど、そのデザインのエッセンスをカジュアルダウンさせて普通にみんなが履いていますよね。同じように一般的なコーラも本来漢方ドリンクだったものを香りの組み合わせで再現しているから、人は本能的に身体にいいものだと捉えて、効能はなくても無性に美味しく感じるんだと思うんです。

———伊良コーラを飲むとスパイスの風味や食感が感じられて、身体にいい気がします。ベースのコーラは今でも季節によって微調整を続けられているそうですね。

コーラもまだまだこれからも進化していきます。特に缶はもっといろんなことができるだろうなと感じているので、開発を専門的にできるメンバーを増やしてもっともっと追求していきたいですね。

———海外出店なども視野に入れていらっしゃるんですか?

お声がけはいただいているんですけど、今はマンパワーが足りなくって。来年あたりから海外出店に向けて動き出したいなとは思っています。これからもワクワクしながら伊良コーラというブランドを世界に届けていきたいです。

コーラ小林

伊良コーラ代表/コーラ職人。1989年・東京生まれ。和漢方職人「伊東良太郎」を祖父に持つ。北海道大学農学部卒業後、大手企業に勤務しながら、大好きなコーラ作りの探求を進め、2018年7月にクラフトコーラ専門メーカー・専門店「伊良コーラ」を立ち上げる。

伊良コーラ HP:伊良コーラ Instagram:@iyoshicola コーラ小林 Xアカウント:@cola_kobayashi

Photographer /Masakazu Koga
Writer /Mikiko Ichitani

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