Interview
あなたからあなたに
Vol.10ENA
ikawには、フィリピン語で“あなた”という意味があります。肌はあなた自身であり、あなただけのもの。あなたがあなたの味方でいること。あなたがあなたに寄り添ってあげること。
「あなたからあなたに」は、そんなブランド名に込められた“あなた”の物語を聞いてゆくインタビューコンテンツです。
第十回は、現代美術家として固定概念や枠にとらわれず、社会や文化にフォーカスし様々な手法で自身のアイデンティティを表現しているENAさんが登場。大胆な色彩や構図で観る者を引き込みながら、さまざまな視点やアプローチで問題提起を行う彼女の作品に込める想いや日常において大切にしていること、そのヴェールに包まれた素顔について教えてもらいました。
———美術専攻で学校を卒業後、10年ほど他業種で働いたのちにアート活動を再開されたENAさん。再開のきっかけはなんだったのでしょうか?
ずっとアートは近い存在だったので、ほかの仕事をしている時期もいろいろな展示を観に行ったり、アーティストの友人と接する機会も多く、そのなかで出会った裏千家のSHUHALLY庵主の松村宗亮さんと一緒に「パンクな茶会」というイベントをディレクションさせていただくことになったのがきっかけでした。400年以上も前に四畳半の閉ざされた茶室の中で行われていた茶会という行為は、当時を考えるととてもパンクなことだったのだろうという発想から生まれたプロジェクトで、いちアーティストとして茶室の中を作品としてしつらえさせていただきました。
———茶会=パンクもそうですし、最新の展示テーマとなった「あくび」など、視点や切り口がユニークな作品が多くあります。インスピレーションはどこから得ているのですか?
無意識に日常から拾っていく作業をしているような気がします。メモをとったり、情景を記憶にとどめて、その切り取られた情報を掘り下げて展開していくことが多いです。「あくび」のコンセプトは5年前から考えていて、一緒に展示をしていた「フェイス」という作品は4年前に構成し、2年前から制作してきた作品です。展示でお披露目するのと、考えているタイミングが常に一緒というわけではないんです。アウトプットの技法もあまり気にしていなくて、そのコンセプトに見合ったマテリアルで立体や絵画、映像へと落とし込むようにしています。
———柔軟に作品と向き合っていらっしゃるんですね。その感覚はアートに限らずですか?
そうかもしれません。なので、このインタビューで話していることも一年後には変わっているかもしれないです。そういうことってみんなあると思うんですよね。多面的なペルソナを誰しもが持っていると思うので、わたしも意識的に柔軟にしているのではなく自然とそういうふうになっているような気がします。
———「フェイス」シリーズでは、ポートレートのキーとなる顔の部分をマーブリングで曖昧にされた作風がポイントとなっていますが、どういった視点で制作されたのでしょうか?
本来ポートレート(肖像画)というのは、限られた権力者しか描いてもらうことのできない格式の高いものだったのが、写真が生まれたことによって一気に広まって、写実画家という人たちが一気に職を失ったんですよね。SNS上では著作権が破棄されているものもあり、誰でも撮り放題、編集し放題となっている現代と結びつけてポートレートの再構築を図った作品になっています。展示をすることで作品やわたし自身を見られるというのはもちろん、わたしも鑑賞者が何に興味を持って見ているのかを観察することを楽しみにしていて、「フェイス」シリーズでは見る/見られるという事も意識しながら表現しました。
———曖昧になっている部分が、鑑賞者にとって考える余白になっているような気がします。
実は、「フェイス」シリーズでは全ての作品のマーブリングされた最下層に、「DON’T JUDGE ME」というメッセージが描いてあるんです。その上に何層もマーブリングでレイヤーしています。経年劣化で何百年後かに最下層がぺろっと顔をだしたときに、「DON’T JUDGE ME」というメッセージが出てきたら面白いなと思って描きました。
———ポップなようで、内側に反骨心を秘めているというのがとてもパンクですね。
俳優のポートレートをベースに、それぞれのタイトルをSNSの架空のアカウント名にしているのにも意図があって、今ってInstagram、Twitter、Facebook、TikTokといったいろいろな媒体ごとに一人の人でも全然違うことを発信していますよね。それはオフラインでも、初対面もしくは何度目かといった関係性や距離感でペルソナが分かれていたりする。そういうところでは誰もが俳優なのではないかなと。結局は衣装やセットで装っていて、他者の本音などはわからない。本当の自分のことさえも見えていないのかもしれないというメッセージも込めています。
———作品として楽しんでいるうちに自分自身を見させられているような感覚になります。ENAさんはご自身の肩書きに「作色家」というキーワードを入れていますが、これはどういったものなのでしょうか?
もともと色に惹かれるものがあり、小さい頃から色の掛け合わせなどが独特だと言われることも多く、マーブリングという手法を自分でやっていく中で、一種の自分の強みなのかなと思えるようになってきて……。音を作ったり、操ったりする作曲家や作詞家がいるんだったら、色を作ったり、操る作色家というのがいてもいいのかなと思い、勝手に造語として作りました。
———色のどういう部分に魅了されるのですか?
色って目の色やその土地の太陽などの光によって見え方が変わるんです。瞳の青い人が見ているブルーと我々が見てるブルーは絶対に違いますし、旅行先で訪れたモロッコと日本では太陽の色が違うので同じ顔料でも全然違う見え方になります。常に本当の色は何なんだろうと考えながら模索しています。
———作品はキャッチーでポップな印象がありますが、コンセプトを聞いてみると真逆というか地に足のついた印象がありますよね。
わたしはアート自体が落語と似てるなと思っていて。落語って枕だけ聞いても、ちゃんと聞く姿勢にならないとストーリーがわからないじゃないですか。アートの本質もきちんと見る気持ちがないと多分見れないものだと思っていて。なので、展示をする際にはなるべく一人ひとりとお話をするように心がけています。割と男女問わず気さくに話してくださるので、来場者の方からはあまり遠い存在ではないのかなって感じますね。
———交友の幅は広いタイプですか?
おばあちゃんとかによく声をかけられますね。大体黒あめをもらいます(笑)。あとは、小さい子とも仲良くなれちゃう。交友関係というと職業柄幅広くて、一番上は70代のギャラリストの方で、よく一緒に食事しながらプライベートの話をしたりもするし、一番小さい子とは粘土などで一緒に遊んだり……。自分が10代のころに「まだ若いから」と言われることがすごく嫌だったので、そういうことは意識しないようにしています。それぞれと対話をする中で、好きなものを聞いたりして、考え方や発想に気付きをもらうことも多いですね。
———オンオフを切り替えるための工夫やルーティンはありますか?
描く前に10分間瞑想をしてから始めるということを習慣にしています。ただ、それはスピリチュアルな目的ではなくて、呼吸を止めて描いてしまう癖があるので、なるべく深く呼吸をするために行っています。
———一日の中で一番好きな時間はありますか?
基本的に世間が寝静まったときに描いたりとかすることが多くて、世の中が動いてない時間が好きかもしれません。しーんとなっている時は連絡も来ないし、作業も捗ります。だけど本当は朝に憧れています(笑)。朝日を浴びて制作したいんですけど、気づいたら大体逆転しちゃってますね。
———寝る前に考え事をするタイプですか?
夢にも考え事が出てきてしまうくらい、ずっと何かしら考えてます。
———スキンケアで大切にしていることはありますか?
もともと本当に肌が弱くて、学生時代はアトピーでずっと悩んできたこともあり、多分人より何倍も肌に向き合ってきていると思います。お化粧を落とさずに寝ることは、今まで一度もないですし、自分自身と向き合う時間としてスキンケアは大事にしていますね。色々と情報収集することも好きですが、敏感肌なのでコロコロ変えるというよりは、自分に合っているものをなるべくずっと使っている慎重派だと思います。
———最後に、これからやりたいことや将来の夢はありますか?
現段階での夢は、パブリックアートを作るということ。パブリックアートというのは公共のアートで、例えば六本木ヒルズだったらルイーズ・ブルジョワの蜘蛛の作品とかその街を象徴するようなアート。できるだけ物理的に大きい作品の方が、輪廻転生が本当だとしたら、また自分の作品に巡り合えるんじゃないかなって思っていて。土地という贅沢なものに対して、何百年後も残っていたらいいなっていう意味合いも込めて、パブリックアートはずっとやりたいと思っています。
ENA / 現代美術家
美術専攻で高校を卒業後、油彩画、アクリル画、コラージュ、立体造形、写真、映像、音響、インスタレーションなど、固定概念や枠にとらわれず、様々な手法で自身を表現している。
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Photographer /Tetsuo Kashiwada
Writer /Mikiko Ichitani